
8月22日と9月5日、さかゑリビングラボ「市ゼミ」の第1回、第2回を開催しました。
市ゼミは、境港で小さなマーケットをひらきながら、まちの日常にどんな場所や関係が育っていくのかを、実際に試していく取り組みです。商品を売ることだけでも、イベントを成功させることだけでもありません。
人が立ち止まる。
誰かと話す。
少し長くその場所にいる。
小さな商いを試してみる。
また来てみたいと思う。
そんな日常の風景をどう育てていくのか。まずは2回の座学から、みんなで考え始めました。
第1回|「イベントをする」より、「居場所を育てる」
8月22日の第1回は、ひと・ネットワーククリエイター/眺めニストの山下裕子さんを講師に迎えました。テーマは、「マーケットから、まちの日常を育てる」山下さんの話の中で何度も出てきたのは、「用がなくても、そこに行こうと思える場所」という考え方でした。
買い物をするから行く。
イベントがあるから行く。
だけではなく、なんとなく座る。誰かを眺める。風にあたる。少し話す。そんな「目的のない時間」を受け止める場所が、まちの中にあること。その積み重ねが、単なる空間を「居場所」に変えていくのでしょう。

イベントは、目的ではなく手段
山下さんの資料には、「イベントは、手段」「実施目的は、ゆるやかなつながり」という言葉が強くありました。イベントをたくさん開催すれば、まちが豊かになるわけではない。そこで人が出会い、誰かの存在を知り、また来ようと思う。そうした小さな関係が育っていくことの方が大切です。
また、場を使うことによって、そこに暮らす人自身が「地域の主体者」になっていくという話もありました。誰かが用意してくれた場所を使うだけではなく、自分たちで使い方を考える。それだけでも、まちとの距離は少し変わります。

通る場所から、居られる場所へ
また、山下さんが紹介した言葉のひとつに、「賑わい=滞在人数×滞在時間」があります。人がたくさん通ることだけが「賑わい」ではない。少人数でも、誰かが座っていたり、本を読んでいたり、話をしていたり。長くそこに居られること。つまり、通行者を、滞在者へ。その視点で境港の公共空間を見ると、これまでとは違った可能性が見えてきます。参加者のみなさんからも、
「用がなくても行きたくなる場所があったらいい」
「初回から完璧にしようとしなくてもいいのかもしれない」
「続けることを最初から考えすぎなくてもいい」
といった声が出ました。「良いイベントをつくらなければ」という力が、少しずつほどけていくような時間でした。

市場は、まだ決まっていないことを試せる場所
山下さんは、市場についても話してくれました。市場は、単にモノを売買する場所ではありません。新しい商いを試したり、自分の得意なことを小さく出してみたり、まだ名前のついていない活動を始めてみたり。そんな「未確定な活動」を育てる余白にもなります。広場は「未確定なアクティビティを生み出し、育てる場」として紹介されました。
最初から完成していなくてもいい。まずは出してみる。やってみる。そこから考える。
その感覚を持って、第2回へ進みました。

第2回|じゃあ、自分たちなら何を持ち込む?
9月5日の第2回は、地域づくりや屋台を起点とした場づくりに取り組む又吉重太さんを講師に迎えました。テーマは、「マーケットをひらく準備をする」。第1回で考えたのが、「どんな場所があるといいだろう?」だとすれば、第2回は、「じゃあ、自分たちならそこに何を持ち込む?」へ。一気に、実践に近づいていきました。

屋台は、小さく始めるための道具
又吉さんの話で印象的だったのは、屋台の身軽さです。大きな店舗を構えなくてもいい。大きな投資をしなくてもいい。自分の商品やサービスを、まず実際の場所へ持っていくことができる。
やってみて、違ったら変える。
失敗しても、また組み直せる。
屋台は小さな商いの道具であると同時に、まちとの関わり方を試す、小さな入口でもあります。市ゼミの募集時から、第2回は「屋台とマーケットから考える、まちとの関わり方」「主催者としての心構えと実務」「出店する人や地域との関係づくり」を考える回として位置づけていました。

急に、風景が見えてきた
この日、参加者のみなさんから、具体的なアイデアが次々と出てきました。
コーヒー。
本。
花。
リペア。
DIY。
夕暮れだけ現れるお茶処。
景色や風を楽しみながら飲める場所。
採れた魚をその場で食べる屋台。
朝の冷酒とおにぎり。
「子どもがいなくても、にぎやかな場所でぼーっと本を読んだり、コーヒーを飲んだりできる場所」そんな声もありました。第1回では、「どういう場所があったらいいだろう」と考えていたものが、第2回では、「そこに自分たちは何を持ち込めるだろう」へ変わっていきました。思想だったものが、少しずつ風景になっていく。そんな時間だったように思います。

名前をつけると、場所が少し近くなる
この日は、これから市をひらいていく緑地や、そこで使うタープの名前についても意見を出し合いました。そこで生まれたのが、「白波タープ」という名前。
境水道に立つ白波のように、白い布が風に揺れる。そんな風景を想像しながら、これから朝市の場をつくっていきます。名前を考える。それだけでも、その場所が少しずつ「自分たちの場所」になっていくのかもしれません。

そして、9月27日から「さかゑの朝市」へ
2回の市ゼミを経て、9月27日から、境水道沿い海岸緑地で「さかゑの朝市」を始めます。期間は11月29日まで。毎週日曜日、全10回。ただし、この朝市が市ゼミの「完成形」ではありません。むしろ、ここからが実験です。
小さく商う。
公共空間を使う。
滞在する。
誰かと出会う。
試してみる。
振り返る。
そして、また次の週に少し変えてみる。市ゼミでは、この10週間を通して、境港の日常に合う「市」のあり方を探していきます。市ゼミのチラシでも、実践は「全10回の実践を通して、試し、振り返りながら、境港の日常に根づく市の形を探す」としています。答えを出すための10回ではなく、答えを探していくための10回。白波タープの下に、どんな人が集まり、どんな時間が生まれるのか。
まずは、小さな市から。まちの日常を育てる実験が、始まります。
